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札幌高等裁判所 昭和55年(ウ)106号 決定 1981年2月12日

申請人 山崎重雖 外一名

被申請人 共永交通株式会社

主文

本件仮処分申請をいずれも却下する。

訴訟費用は申請人らの負担とする。

理由

一  申請人らの申請の趣旨及び申請の理由は別紙記載のとおりである。

二  被申請人の答弁は次のとおりである。

1  申請の趣旨に対する答弁

本件仮処分申請は、いずれもこれを却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

2  申請の理由に対する答弁

(一)  第一項の一ないし六は認める。

同七の中申請人らが賃金相当額請求権を有することは争う。その余は認める。

同八の1は認める。2の中昭和四九年四月七日に昭和四九年度賃金協定が成立し、右協定が昭和五〇年六月一〇日改定され、右協定が同年九月一日から実施されたことは認め、その余は争う。3ないし6の中各賃金協定の改定及び改定協定の実施時期は認める。その余の事実は申請人重雖につき認め、同恵子につき否認する。

同九の中仮払金額に関する事実は認める。その余の事実は申請人重雖につき認め、同恵子につき否認する。

同一〇は申請人重雖につき認め、同恵子につき否認する。

同一一につき特例として二万四、〇〇〇円支給したことを認め、その余の事実は否認する。

同一二、一三の事実は否認する。

(二)  第二項の一、1、2は認め、3は争う。

同二の一、一四七万〇、五三三円を申請人らが受領した事実は認め、その余の事実は否認する。

同三は否認する。

同四の中被申請人が第一審本案判決に対し控訴している事実は認めるが、その余は否認する。

(三)(1)  札幌地方裁判所が同庁昭和五〇年(ヨ)第六三五号事件について昭和五一年七月一五日にした第一審仮処分判決によつて申請人らは被申請人から毎月各自七万六、〇〇〇円の仮払いを受けているから、本件仮処分申請は右部分については二重払いを求めるものとして不当である。

(2)  申請人らの主張する昭和五〇年以降の賃金改定協定は、稼働が平均以下のものについては、基本給の増額分に対応する賃金の上昇は認められないから、申請人恵子については同人の主張するような賃金の上昇はない。

(3)  申請人らは前記第一審仮処分判決によつて被申請人から毎月各自七万六、〇〇〇円の仮払いを受けているほか、札幌地方裁判所昭和五三年(ヨ)第二〇七号賃金等仮処分申請事件の仮処分決定(以下別件仮処分決定という。)によつて同年八月申請人ら二名分合計三〇〇万円の仮払いを受け、更に昭和五五年四月三〇日第一審本案判決(札幌地方裁判所昭和五一年(ワ)第九八一号事件)の仮執行宣言に基づいて申請人ら二名分合計一、一四七万〇、五三三円の支払いを受けている。

申請人らは昭和五五年四月三〇日以降は、右本案事件処理を委任した弁護士に報酬金一〇〇万円を支払つたほかは少々の支払いをしているに止まるから右受領合計金額一、一四七万〇、五三三円はその殆んどの金額が残存している筈である。したがつて本件仮処分申請は保全の必要性を欠くものというべきである。

三  当裁判所の判断は次のとおりである。

1  申請人らの申請の理由第一項の一ないし六の各事実及び同七の中申請人らが第一審仮処分判決の確定によつて被申請人に対し労働契約上の地位を仮に有するものとされたこと、同八の中賃金協定の制定、改定及びその実施時期並びに右に伴う申請人重雖の平均賃金額、同九の中申請人らが昭和五五年五月以降引続き第一審仮処分判決に基づいて一箇月各自七万六、〇〇〇円の仮払いを被申請人から受けていること、同一一の中特例一時金として昭和五五年五月二三日従業員に対して二万四、〇〇〇円を被申請人が支給したことは当事者間に争いがなく、また同一〇の事実は申請人重雖と被申請人との間においては争いがない。

2  申請人らの主張する被保全権利の存否はひとまずおき、申請人らが、その主張する金員の仮払いを受けるべき保全の必要性の存否について検討する。

(一)  申請人らは第一審本案判決の仮執行宣言に基づく強制執行によつて昭和五五年四月三〇日、本件解雇の日以降昭和五五年四月分までの毎月の平均賃金及び昭和五〇年度から昭和五四年度(ただし冬期一時金を除く。)までの夏期及び年末一時金並びに燃料手当一時金等合計一、一四七万〇、五三三円の支払いを受けたこと、右判決に対する被申請人の控訴に伴う強制執行停止の申立に基づいて札幌高等裁判所の強制執行停止決定がなされた後は、被控訴人から第一審仮処分判決に基づいて昭和五五年五月分以降引続いて申請人ら各自一箇月七万六、〇〇〇円の仮の支払いを受けていることは当事者間に争いがなく、また本件疎明資料によると、申請人らは札幌地方裁判所昭和五三年(ヨ)第二〇七号賃金等仮処分申請事件の仮処分決定(別件仮処分決定)により昭和五三年八月被申請人から合計三〇〇万円の仮の支払いを受けていることが一応認められる。

(二)  そうすると申請人らは本件解雇がなされた昭和五〇年二月以降少なくとも毎月合計一五万二、〇〇〇円、昭和五三年八月頃三〇〇万円の各賃金仮払いを受けたほか、昭和五五年四月三〇日一、一四七万〇、五三三円の支払いを受けたのであるが、更に同年八月一三日本件仮処分申請に及んでいるものであるところ、およそ、賃金の仮払いを命ずる仮処分決定は、解雇等によつて収入の途を断たれた労働者及びその家族の経済生活上の現在の危険の避止を目的とするものであつて、保全すべき権利の終局的実現を目的とするものではないというべきところ、当裁判所の申請人らに対する審尋の結果によると、申請人らの家族の状況は、申請人重雖に四三歳、同恵子は四一歳、長男拓生は現在美唄工業高校三年生、次男健二は札幌清田高校一年生で共に上級学校への進学を希望していること、申請人らは本件解雇後、右解雇の不当性を社会に訴えるとともに、右解雇の撤回を求める申請人らの行動に対する支持と援助を求めるべくニユース紙を発行し、また右目的達成のため北海道内のみならず本州方面の各労働組合を訪問すること等に、専らみずからの時間と労力を使用し、本件解雇によつてもたらされた一家の経済生活上の困難を解消するための努力は殆んどせず、わずかに申請人恵子が一度就職のための面接に応じたことがあつたものの、その際に本件解雇につき係争中であることを申述したため不採用となつたことがあるに止まり、一家の生計の維持は専ら前記第一審仮処分判決、別件仮処分決定による被申請人の賃金仮払い及び第一審本案判決に基く被申請人の賃金支払いに依存し、その不足分は失業保険金、生活扶助等によつて賄つていることが一応疎明される。

(三)  申請人らは当裁判所における審尋において、第一審判決の仮執行宣言に基づく強制執行によつて昭和五五年四月三〇日支払いを受けた一、一四七万〇、五三三円は、本件解雇に伴つて受給した失業保険金のうちの約三〇万円、生活扶助金のうちの約一〇万円の返済、労働金庫からの借金九〇万円の弁済、本案事件等についての弁護士報酬約一〇〇万円の支払い、本案事件等につき世話になつた人達を招いて開催した勝利報告集会費用七五万円の支払いに使用したほか兄山崎一雄から四〇〇万円、姉向クニ、同向静子から各一〇〇万円合計六〇〇万円を借用していたので、その返済をしたため現在約一三〇万円を残すのみとなつている旨を供述しており、更に右親族二名からの合計六〇〇万円の借用金については、借用証の授受はなく、したがつて弁済証書も作成されていないというのであるが、親族からの借金であることを斟酌しても、その金額が多額であることを考慮すると、何らの証憑書類を作成することなく金員の貸借及びその返済がなされていることは社会通念からみて極めて異例のことに属し、したがつて右合計六〇〇万円の借用及びその弁済に関する申請人らの供述部分はたやすく措信することはできず、他に右金員貸借の存在及びその弁済の事実を疎明するに足りる資料はない。してみれば他に別段の主張及び疎明がない以上申請人らは右受領金一、一四七万〇、五三三円のうち現在なお約七〇〇万円程度の金員を所持しているものと一応判断することが相当である。

(四)  のみならず申請人らが自動車運転の技術を有することは、その自陳するところであり、また本件疎明によれば両名とも健康で充分労働能力を有することが一応認められ、更に職業を求める者に対しては、職業安定法に基づく公共の職業紹介制度の備わつているという当裁判所に顕著な事実を考慮すると、申請人らが前認定のとおり本件解雇の不当性を社会に対して訴えてその支持援助を求め、或いは右目的を達成するため労働組合を訪問することの意義は、当裁判所もこれを理解しうるところであるが、さらばといつて専らこれに申請人らがその労力と時間を使い、申請人ら一家の生計の維持のために殆んど何らの努力も払わないことは、特段の事情のない限り首肯し難いところといわざるを得ないのであつて、むしろ申請人らとしては、一家の生活維持のため、みずからも相応の努力をつくすことが相当であると解すべきであり、右相応の努力をつくすことによつて、申請人らの供述する一箇月分の必要生活費約二五万円と、第一審仮処分判決による仮払金合計一五万二、〇〇〇円との差額約一〇万円程度の所得を挙げることは、本件疎明資料を総合して困難であるとは認められないというべきところ、本件につき右特段の事情の存在については何らの主張及びその疎明がない。

(五)  してみれば申請人らは既に被申請人から支払いを受けた金員及び今後に亘つて第一審仮処分判決に基づいて支払いを受ける仮払金一箇月合計一五万二、〇〇〇円並びに申請人らが相応の生活費を得るための努力をつくすことによつて、その日常生活の維持は必ずしも困難であるとは考えられないし、その他本件全疎明をもつても本件仮処分の必要性の存在を一応認めるには足りないといわなければならない。

3  以上のとおりであるから、申請人らの本件仮処分申請は、保全の必要性についての疎明を欠くものというべく、しかも保証をもつて疎明に代えることは相当とは認められないから、爾余の点につき判断するまでもなくこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 安達昌彦 大藤敏 喜如嘉貢)

(別紙)

申請の趣旨

一 被申請人は

1 申請人山崎重雖に対し、金九六万一、一六四円及び昭和五五年八月一日以降本案判決の確定に至るまで当月一日から末日までを一箇月として毎翌月五日限り金二二万〇、四八八円を、

2 申請人山崎恵子に対し、金七四万七、七四七円及び昭和五五年八月一日以降本案判決の確定に至るまで当月一日から末日までを一箇月として毎翌月五日限り金一四万九、三四九円を、

各仮に支払え。

二 申請費用は被申請人の負担とする。

との裁判を求める。

申請の理由

第一被保全権利

一 被申請人は、一般乗用旅客自動車運送事業を営む株式会社であり、昭和五〇年六月一六日には、申請外大成交通株式会社(以下「大成交通」という。)を吸収合併した。

二 申請人らは、夫婦であり同四六年四月五日右大成交通に雇傭され、自動車運転手としてタクシー業務に従事し、それぞれ毎月五日に前月分の賃金の支払いを受けており、同五〇年二月当時の基本給はいずれも七万六、〇〇〇円であつた。

三 右大成交通は、申請人山崎恵子(以下申請人恵子という。)を昭和五〇年二月八日、同山崎重雖(以下申請人重雖という。)を同月二五日にそれぞれ解雇した(以下本件解雇という。)として、申請人らに対して右同日以降の賃金の支払いをしない。

四 そこで、申請人らは被申請人を相手方として、札幌地方裁判所に対し昭和五〇年一〇月三一日、

1 申請人らが被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2 被申請人は申請人恵子に対し、昭和五〇年二月八日から、同重雖に対し同月二五日からそれぞれ本案判決確定に至るまで、当月一日から末日までを一箇月として、翌月五日限り月額七万六、〇〇〇円の割合による各金員を仮に支払え。との命令を求める地位保全仮処分命令申請を行なつたところ、同裁判所は昭和五一年七月一五日右申請を全面的に認容する判決を行なつた。(昭和五〇年(ヨ)第六三五号)(以下第一審仮処分判決という。)。

被申請人は、右判決を不服として札幌高等裁判所に対して控訴の申立をしたが、昭和五二年七月二二日右控訴を取下げたため、右同日右札幌地方裁判所の判決が確定した。

五 つづいて申請人らは昭和五一年七月二三日被申請人を相手方として札幌地方裁判所に、

1 申請人らは、それぞれ被申請人に対し労働契約上の地位を有することを確認する。

2 被申請人は申請人重雖に対し、七〇七万三、五五五円及び昭和五四年一二月一日以降当月一日から末日までを一箇月として毎翌月五日限り二〇万四、八八八円を、申請人恵子に対し、三八〇万二、四三〇円及び昭和五四年一二月一日以降当月一日から末日までを一箇月として毎翌月五日限り一三万三、七四九円をそれぞれ支払え。

との労働契約上の地位確認等請求を求める本案訴訟を提起した(昭和五一年(ワ)第九八一号)ところ、同裁判所は昭和五五年四月二八日申請人の請求をほぼ全面的に認める判決を言渡した(以下第一審本案判決という。)。

右判決によって、申請人らは被申請人に対して労働契約上の地位を有すること、一箇月あたり申請人重雖が二〇万四、八八八円、同恵子が一三万三、七四九円のそれぞれ平均賃金を昭和五四年一二月一日以降確定判決に到るまで、被申請人に対して請求できる権利を有すること、右金員につき仮に執行することができることなどが認められた。

六 被申請人は右判決を不服として札幌高等裁判所に対し控訴の申立をし(昭和五五年(ネ)第一六三号)、さらに、同裁判所に第一審本案判決の仮執行宣言にもとづく強制執行停止の申立を行い、右強制執行を停止する旨の決定を得、同年六月二日担保金を供託したので、同日強制執行停止の効力が生じた。

七 申請人らは本件解雇を理由として、以後被申請人から従業員としての処遇を得ていないが、第一審仮処分判決の確定により、被申請人に対し労働契約上の地位を仮に有するものであり、したがつて右解雇以降も被申請人に対し平均賃金相当額の金員を、当月一日から末日までを一箇月として毎翌月五日限り支払いを請求する権利を有する。

八1 ところで、本件解雇以前申請人重雖は一八万〇、四八八円、同恵子は一〇万九、三四九円の平均賃金を毎月大成交通から支給されていた。

2 右平均賃金は、右大成交通と同社に勤務する運転手で組織されていた大成交通労働組合との間で昭和四九年四月七日締結された昭和四九年度賃金協定に定められた賃金体系をもとに被申請人によつて算定されたものであるが、右協定は昭和五〇年六月一〇日改定され(大成交通労働組合は北海道交運事業ハイタク労働組合大成支部に吸収された。)、基本給は月額八万九、〇〇〇円に引上げられた(前年に比べ一万三、〇〇〇円アツプ)。右協定は昭和五〇年九月一日から実施された。したがつて、申請人重雖の平均賃金は同年九月一日からは少なくとも前年度の平均賃金よりも月額一万三、〇〇〇円多い一九万三、四八八円、また同恵子の平均賃金は右九月一日からは少なくとも前年度の平均賃金を一万三、〇〇〇円上回る一二万二、三四九円になつた。

3 右賃金協定は昭和五一年六月六日改定され(右北海道交運事業ハイタク労働組合大成支部は、北海道交運事業ハイタク労働組合共永支部と改称した。)、基本給は九万五、〇〇〇円とされた(六、〇〇〇円アツプ)。右協定は昭和五一年五月二一日から実施された。

したがつて、申請人重雖の平均賃金は同年五月二一日からは前年の賃金を六、〇〇〇円上回る一九万九、四八八円、また同恵子の平均賃金はやはり前年の賃金を六、〇〇〇円上回る一二万八、三四九円になつた。

4 右賃金協定は昭和五二年一〇月五日改定され、基本給は九万九、四〇〇円とされた(四、四〇〇円アツプ)。右協定は昭和五二年一〇月二一日から実施された。

したがつて、申請人重雖の平均賃金は同年一〇月二一日からは前年の賃金を四、四〇〇円上回る二〇万三、八八八円、また同恵子の平均賃金はやはり前年の賃金を四、四〇〇円上回る一三万二、七四九円になつた。

5 右賃金協定は昭和五四年五月に改定され、基本給は一〇万〇、四〇〇円とされた(一、〇〇〇円アツプ)。右協定は昭和五四年六月一日から実施された。従つて、申請人重雖の平均賃金は同年六月一日からは前年の平均賃金を一、〇〇〇円上回る二〇万四、八八八円、また同恵子の平均賃金はやはり前年度の平均賃金を一、〇〇〇円上回る一三万三、七四九円になつた。

6 右賃金協定は昭和五五年五月に改定され、基本給は一一万六、〇〇〇円とされた(一万五、六〇〇円アツプ)。右協定は昭和五五年六月分の賃金から実施された。従つて申請人重雖の平均賃金は昭和五五年六月一日から前年度の平均賃金を一万五、六〇〇円上回る二二万〇、四八八円、また同恵子の平均賃金は同年度の平均賃金を一万五、六〇〇円上回る一四万九、二四九円になつた。

九 ところで、申請人らが昭和五五年五月分の賃金から現在まで現実に支給されている額は各七万六、〇〇〇円であるから、前記の平均賃金との差額、すなわち申請人重雖は昭和五五年五月分につき一二万八、八八八円、同年六月分以降につき一箇月一四万四、四八八円、また同恵子は昭和五五年五月分につき五万七、七四九円、同年六月分以降につき一箇月七万三、三四九円をそれぞれ被申請人に請求する権利を有する。

一〇 申請人らは右平均賃金以外に被申請人に対して次の一時金を請求する権利を有する。

1 昭和五四年度年末一時金

被申請人は昭和五四年一二月一二日勤務年数一年以上(昭和五三年一一月二一日から同五四年一一月二〇日まで)の従業員(運転手のことを言う。以下同じ。)に対し年末一時金として平均支給額三二万二、二〇〇円を支給した。

申請人らが解雇されることなく勤務していたら少なくとも右金員を支給されていたことは疑いがない。

2 昭和五五年度夏期一時金

被申請人は昭和五五年六月一二日その勤務年数一年以上(昭和五四年四月二一日から昭和五五年五月二〇日まで)の従業員に対し夏期一時金として平均支給額一九万七、三〇〇円を支給した。

申請人らが解雇されることなく勤務していたら、少なくとも右平均支給額と同額の年末一時金を支給されていたことは疑いがない。

一一 申請人らは右平均賃金及び一時金のほかに、被申請人に対し次の特例一時金を請求する権利を有する。

被申請人は昭和五五年五月二三日同年度限り特例として従業員に対し二万四、〇〇〇円を支給した。したがつて、申請人らは解雇されることなく勤務していたら、少なくとも右金員を支給されていたことは疑いがない。

一二 以上のとおり申請人らは被申請人に対し、その従業員たる仮の地位に基づき次の賃金の支払いをうける権利を有する。

1 支給されるべき賃金

(一) 支払方法

当月一日から末日までを一箇月として翌月五日限り

(二) 金額

(1) 申請人重雖

イ 昭和五五年五月一日~同月末日

一二万八、八八八円

ロ 昭和五五年六月一日~同年七月末日

(イ) 月額 一四万四、四八八円

(ロ) 昭和五五年六月一日~同年七月末日までの計算

14万4,488×2=28万8,976(円)

ハ イとロの合計 四一万七、八六四円

(2) 申請人恵子

イ 昭和五五年五月一日~同月末日

五万七、七四九円

ロ 昭和五五年六月一日~同年七月末日

(イ) 月額 七万三、三四九円

(ロ) 昭和五五年六月一日~同年七月末日までの計算

7万3,349×2=14万6,698(円)

ハ イとロの合計 二〇万四、四四七円

2 一時金

(一) 申請人重雖

(1) 昭和五四年度年末一時金 三二万二、〇〇〇円

(2) 昭和五五年夏期一時金  一九万七、三〇〇円

(3) (1)と(2)の合計     五一万九、三〇〇円

(二) 申請人恵子

(1) 昭和五四年度年末一時金 三二万二、〇〇〇円

(2) 昭和五五年夏期一時金  一九万七、三〇〇円

(3) (1)と(2)の合計     五一万九、三〇〇円

3 特例一時金

(一) 申請人重雖 二万四、〇〇〇円

(二) 申請人恵子 二万四、〇〇〇円

一三 したがつて申請人らが昭和五五年八月六日現在で被申請人に対して請求できる金員は次のとおりである。

1 申請人山崎重雖につき 九六万一、一六四円

2 申請人山崎恵子につき 七四万七、七四七円

第二保全の必要性

一 1 札幌地方裁判所が昭和五五年四月二八日申請人らの労働契約上の地位確認等の請求を認容する判決(昭和五一年(ワ)第九八一号)(第一審本案判決)を言渡したあと、右判決に基づいて、申請人らは被申請人から解雇された日以降昭和五五年四月分までの毎月の平均賃金及び同五〇年度から昭和五四年度(ただし冬期一時金は除く。)までの夏期、年末、燃料手当の各一時金の合計一、一四七万〇、五三三円をうけとつた。

2 被申請人は前記のとおり札幌高等裁判所から第一審本案判決の仮執行宣言に基づく強制執行の停止決定を得たため、昭和五五年五月分の給料から、右判決の認容した平均賃金申請人重雖につき二〇万四、八八八円、同恵子につき一三万三、七四九円をそれぞれ支払わず、昭和五一年七月一五日言渡した地位保全の仮処分の判決(昭和五〇年(ヨ)第六三五号)(第一審仮処分判決)に基づいて、申請人らにそれぞれ月額七万六、〇〇〇円を支払つているのみである。

3 しかし申請人らは第一審本案判決の言渡後被申請人から支払いをうけた金員は、解雇されて以来今日までの間に負つていた多額の借金の返済にあてたため、現在手元にほんの少しの金員しか残つておらず、更に第一審仮処分判決に基づいて支給されている月額合計一五万二、〇〇〇円では現在の申請人らの生計を維持することが非常に困難である。

二 申請人らは昭和五五年四月三〇日、被申請人から解雇された日以来昭和五五年三月末日までの賃金差額と昭和五〇年度から同五四年度(ただし冬期一時金は除く。)までの一時金として合計一、一四七万〇、五二二円をうけとつた。

しかし、申請人らはこれまで被申請人の不当な解雇に対抗して職場復帰を実現するため、各地に訴える等の運動費及び家族の生活費並びに子供の教育費などのため多額の借金を札幌市役所、労働金庫、知人、親戚などからしており、右受領した金員のほとんど全部をその返済等にあて、手元にわずかしか残つていない。

三 申請人らには育ちざかりの息子二人がいて、生活が大変苦しい。

長男拓生は現在美唄工業高校三年生、次男健二は札幌清田高校一年生であるが、両人とも毎月学校にかかる経費が最低で各三万円を必要とし、二人合せて毎月六万円を要する。それに長男拓生は来春函館工業専門学校機械工学科に入学をめざし現在勉強中であり、入学仕度金、下宿代等多額の出費が予定されている。申請人は親としてぜひ長男拓生の上級校進学の希望をかなえてやりたいと思つているが、現在の賃金では経済的にむずかしい。

申請人らの生活は右に述べた子供の教育費ばかりでなく、現在食費、衣料費、燃料費などどの項目をとつても毎月赤字である。最近の公共料金の値上、物価の値上は申請人らの台所に大きな影響を与え、店に買物に出かけて買わなければならない物を見つけても、毎月の生活費の少なさを考えて買わずに家にもどつてくるときもある。

まもなく北海道のきびしい長い冬を迎えるにあたり、生活に欠かすことのできない燃料費が待つている。燃料費は石油の値上げなどで今秋値上は必至であり、これまで毎冬に燃料費がなくて、作業現場や建築工事現場から捨てる板片などを貰いこれを薪にしている。

文化費・交際費などは全く支払いが不可能である。映画を見たくても毎月の生活費を考えると見るのをさしひかえる現状であり、隣近所の冠婚葬祭の社会的に最低なつきあいについてもやむをえず制限し、さもなければ断つている。

解雇の撤回のための運動費も非常に多額にかかる。交通費、通信費、印刷費、部屋代など解雇撤回の運動に必要な経費は申請人の生活を圧迫する。しかしこの解雇を撤回し、職場に復帰するための費用は必要不可欠である。

現在申請人らの家族は全員健康で生活しているが、家族のなかで誰か一人病気にでもなれば、病院にも安心してかかれず、生命にかかわる事態になるようなことにもなりかねないのである。

四 被申請人は、第一審本案判決(昭和五一年(ワ)第九八一号)が昭和五五年四月二八日言渡され敗訴したため、札幌高等裁判所へ控訴して現在審理中である(昭和五五年(ネ)第一六三号)。

申請人らは早期解決を願つて被申請人が第一審本案判決に従うことを願い、それを要求してきたが、被申請人が控訴したため、更に申請人らの生活苦は続くこととなり、もはや放置されない事態に至つている。

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